2021-01-29

「会社はLGBT施策アピールしてるけど…」性的マイノリティにとっての働きやすい職場を考える

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松岡宗嗣

「部長はPCにレインボーのステッカー貼っているけど、そもそもすぐ怒鳴ったりハラスメントをする人だから、私は絶対カミングアウトしないと思う」
「確かにうちの本社は対外的にLGBT施策をアピールしているけど、全然現場に落ちてきていないし、恩恵を感じることはないかも」

働く性的マイノリティの当事者の中には、こうした“実感”を持っている人も少なくない。

2012年に電通総研が「LGBT調査」を実施し、その年には「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社)と「週刊東洋経済」(東洋経済新報社)が「LGBT特集」を掲載した。

2015年に渋谷区、世田谷区の「パートナーシップ認定制度」が注目を集めて以降は、企業が同性パートナーへの福利厚生を適用するなど、いわゆる「LGBT施策」についてのニュースも大きく報じられるようになった。

ただ、社会から排除されてきたマイノリティを一義的に“LGBT市場”と捉える視点には疑問の声も多く、その後は、職場のダイバーシティ&インクルージョンの視点からの取り組みが広がっていった。

取り組み実施率のギャップ

2019年5月に成立した「パワハラ防止法」。パワーハラスメントの中に、性的指向や性自認に関する侮蔑的な言動「SOGIハラスメント」や、本人の性的指向・性自認に関する情報を同意なく第三者に暴露する「アウティング」も含まれ、企業に防止対策の義務が課されることになった。

パワハラ防止法は2020年6月から大企業で施行され、中小企業は2022年の4月から義務化される。

厚生労働省の委託調査を見てみると、いわゆる「LGBT施策」を一つでも実施している企業の割合は、大企業に絞ると4割にまで上ってきている。まさにこの間のLGBTをめぐる注目の高まりが影響していると言えるだろう。

その一方で、中小企業まで含めると取り組みの実施率は1割にとどまる。9割の企業はまだ何も実施していないのが現状だ。

確かにこの10年間で企業のポジティブな変化を感じている性的マイノリティも少なくないだろう。しかし、大企業だからといって、現場で働く当事者にとっては「“やってる風”だけで現場は何も変わっていない」と感じる人もいる。

一方、中小企業では、いわゆる「LGBT施策」は何も実施していないものの、会社のトップや同僚の認識がフラットで心地よく働けていると感じている当事者もいる。

こうした動きに後押しされる形で法整備も進み、一つのマイルストーンとして、2019年5月にパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が成立、SOGIハラとアウティングの防止が企業に義務づけられた。

確かにこの約10年間で「LGBT」に関する報道は飛躍的に増え、企業の取り組みも進んでいる。では、働く性的マイノリティを取り巻く環境は、実感としても変わったのだろうか。

働く性的マイノリティの当事者にとって、どんな職場が「働きやすい環境」と言えるのだろうか。

前述の厚労省の委託調査で聞かれた「性的マイノリティが働きやすい職場とは、どのような職場だと思うか」との質問に対し、当事者の回答で最も多かったものは「性的マイノリティであることを理由に、人事評価や配置転換、異動等で不利な扱いを受けない職場」で約6割だった。そして次に多かったのが「ハラスメントがない職場」。

つまり、まだまだ現状の職場は性的マイノリティであることを明かすと、不利になってしまうことがあり、安全ではないと感じている人が多いということだろう。

実際に、同調査では職場で誰か一人にでもカミングアウトしていると答えた当事者はたった1割程度で、ほとんどの人は職場では一人も伝えていない。

「仕事と性のあり方は関係ない」と思う人も多いだろう。実際に筆者もそうであってほしいと思うが、職場をはじめ社会全体がシスジェンダーや異性愛を前提として制度や文化が形成されている現状では、仕事と関係ないとは言えない。

パワハラ防止法の可能性

当事者の多くが求めていることは、特別な配慮でも、“多様性”枠として陳列されることでもない。性的マイノリティであることが不利にならず、ハラスメントを受けることもない、安全にフェアに働ける環境ではないだろうか。

この点からも、「パワハラ防止法」は現状の景色を変える大きなきっかけとなる可能性がある。なぜなら、これまで法的なバックグラウンドがなかったことで、意識のある企業だけが「LGBT施策」に取り組んできたが、これからは中小企業をはじめ、意識の有無にかかわらず取り組まなければならない義務となるからだ。

では、具体的にどんな施策を行っていけば良いのだろうか。パワハラ防止法は企業が実施しなければならない措置義務を設けている。しかし、あくまでもこれは最低限やらなければならないベースラインだ。既に大企業ではクリアしているところもあるだろう。しかし、冒頭の当事者の“実感”のように、このベースラインだけで働きやすい職場を実現できるわけではない。

「同性パートナーにも福利厚生を適用したのに、利用者が全然いない」
「LGBT施策を実施したら、当事者からやめてほしいと匿名で連絡がきた」
「マーケティングの観点からも性別欄は必要だけど、どういう選択肢にしたらいいだろう」
「トランスジェンダーの従業員のトイレや更衣室の利用について、どんな対応が完璧だろうか」

こうした企業担当者の声も頻繁に耳にする。この連載では、さまざまなジェンダーやセクシュアリティの人々にとっての「働きやすい職場」に向けて、一つひとつの制度や認識について考えていきたいと思う。

初出:wezzy(株式会社サイゾー)

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松岡宗嗣

一般社団法人fair代表理事

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