2019-06-21

党派を超えた連携で「SOGIハラ対策」実現。「第4回レインボー国会」が開催

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松岡宗嗣

5月末、国会でパワハラ関連法が成立。附帯決議では、性的指向や性自認に関するハラスメント「SOGIハラ」や、本人のセクシュアリティを同意なく第三者に暴露する「アウティング」への対策を企業に義務付けることが決議がされた。

そんな中、6月20日、衆議院第一議員会館で2017年以来4回目の開催となる「レインボー国会」が行われ、約150名が参加。「企業へSOGIハラ・アウティング対策の義務付け」という画期的な付帯決議に関わった超党派の国会議員の方々や、厚労省幹部、LGBTの当事者などが今回の経緯について振り返った。

附帯決議は「当事者と党派を超えた議員の取り組みの成果」、次の段階は「指針」の内容をチェックすること

今回の附帯決議は、「SOGIハラ」や「アウティング」を防止する動きとして非常に大きな一歩となった。一方で、企業に求められる具体的な施策など「中身」の部分は固まっておらず、今後厚労省の労働政策審議会で検討され「指針」として取りまとめられる予定だ。(パワハラ関連法成立とSOGIハラ/アウティング対策の義務付けについての詳細はこちら

LGBT法連合会共同代表の小田瑠依さんは、「レインボー国会としては初めて、担当省庁(厚労省)の方にもお話いただきます。(指針の策定に向けた)新たなステップを見据えて院内集会(レインボー国会)を開催できたことに感謝しています」と語った。

また、ILO(国際労働機関)でも職場のハラスメント禁止に関する条約が採択される予定だ。「2020年を目前に控えた、この2019年の、この夏に、大きく社会を、法制度を、みなさんと一緒に動かしていきましょう」

レインボー国会には、党派を超えて20人以上の国会議員や議員秘書の方が参加し、一部の国会議員は参加者に向けて法整備の経緯や思いを語った。

自民党・馳浩議員
「(LGBTに関する法整備について)一歩ずつ階段を登っているスピード感について、みなさんに対して申し訳ないと思いつつ、今回附帯決議に私たちが主張している課題が盛り込まれたことは、半歩でも(この問題を)先に進められたということだと思っています。与野党合わせて努力していくことをお誓いしたいと思います」

自民党・橋本岳議員
「もともとセクハラにSOGIハラの問題も入れるべきではという問題がありましたが、セクハラが限定的に解釈されていたため、綺麗に入れることができませんでした。
今回パワハラという枠組みの中で整理し、SOGIハラについても盛り込むことができました。実効性については議論が残っていますが、まずは一歩なのか半歩なのか、進めることができたのではないかと思っています」

立憲民主党・西村智奈美議員
「今回の法整備は、ILOで議論されているハラスメントの条約を視野に入れて考えていました。ILOの条約ではSOGIハラについても含まれる方向です。条約が採択された際に、日本の国内法も整備しないといけないという議論をしてきました。

そもそも附帯決議とは、法律ができるときに『こういう留意事項があるから実行してくださいね』と政府に対して国会から注文をつけることです。附帯決議が採択される際に、大臣は『今国会で決議した附帯決議は、政府として審議します』と答弁をします。

また、今回の附帯決議ではアウティングに特化した独自のプライバシー保護を入れることができました。
指針の内容は、今後労働政策審議会で議論になっていきます。実効性の高い内容になるよう、引き続き取り組んでいきたいと思います」

公明党・谷合正明議員
「今回の附帯決議は、SOGIハラ解消のための関係者の方々の長年の取り組みの成果だと思います。参議院の予算委員会では、安倍総理からもSOGIハラについて答弁がありました。
公明党からも、SOGI全般に関する提言を政府に提出し、その中でSOGIハラについても盛り込みました。
SOGIに関する課題は超党派の課題でもありますが、公明党としては地方議会のネットワークが強いことに加え、与党にいる強みを活かしてこれからも頑張っていきたいと思います」

国民民主党・川合孝典議員
「今回パワハラ対策がはじめて明文化されたのは画期的でした。この議論の発端は、電通の女性社員の過労死自殺がきっかけでした。長時間労働の対策だけでなく、職場のパワハラというのが背景にあったのは明らかです。SOGIハラにかかわらず、あらゆるハラスメントについて与野党を超えて議論を進めていきたいです」

社民党・福島みずほ議員
「LGBT法連合会の困難リストによると『レズビアンだとカミングアウトしたら”俺が教えてやる”と言って性暴力にあった』という事件や、『(所属する企業が)極めてLGBTフレンドリーな企業だと思っていたが、上司にカミングアウトしたところ、次の日にはみんなに暴露されていた』など、たくさんの事例がありました。労働政策審議会では、積極的に対策のための議論が行われてほしいです」

立憲民主党・福山哲郎議員
「附帯決議の中にしっかりSOGIハラやアウティングという言葉が入ったのは大きな一歩です。これは、国会に来ていただみなさんや、全国のみなさんのおかげです。
これから重要なのは、指針で決まる内容をチェックしていくこと。また、それと並行して同性婚などの全国の運動が高まれば高まるほど、国会の中での実行力が高まります。(社会運動と国会の動きの)相互の関係性が高まるというフェーズに入ってきているのではと思います」

自民党・朝日健太郎議員
「党を超えて力を合わせることができました。みなさんの声が届いたのだと思います」

立憲民主党・尾辻かな子議員
「セクハラについてはすでに指針がありますが、残念ながら、未だにセクハラは至るところで起きてしまっています。これからSOGiハラの指針ができていきますが、それを広げるのはみなさんお力だと思います。ぜひ一緒に力を合わせていきましょう。
また、立憲民主党は、社民党と共産党と共に、今国会で『婚姻平等法案』を提出しました、台湾に続いて日本でも(同性婚の法制化について)超党派でがんばっていきたいと思います」

国民民主党・田名部匡代議員
「現場で起きている(当事者の)苦しみや悲しみに対して、今回の附帯決議に繋がったのは勇気あるみなさん行動のおかげだと思っています。まだまだスタートしたばかりですが、大きなうねりとなって、社会の意識を変えていけるよう進めていきたいと思います」

共産党・本村伸子議員
「SOGIハラについて指針に盛り込まれる方針となったこと、心からの経緯と感謝を申し上げたいと思います。ただ、私はもっと前進させたいと思っています。現状、企業へのセクハラ防止措置義務はありますが、禁止規定はありません。何が禁止なのかという法規定がないんです。
労働局に行っても、『何が悪いのか判断できない』と言われ、被害にあった方が救済されていないという事例もありますし、結局裁判でも金銭的な解決のみで、職場に戻ったりということができていない現状があります。
SOGIハラに関しても、こうした禁止規定に関する検討を行うことや、ILO条約の批准を検討し、さらに前進させていきたいです」

「指針」策定に求められるポイント

企業に求められる具体的な施策などについて決める「指針」は、今後、厚生労働省の労働政策審議会で議論されることになる。

厚生労働省、雇用環境均等局、雇用機会均等課の岡英範課長は「これまでハラスメント対策は法的に明記されていませんでしたが、今回の法改正で国として(法律)に明記することができました。政府としても様々なご指摘をいただきながらこの法案を成立させることができたことに対して、まず国会議員の先生方にもお礼を申し上げたいと思います」と話した。

今後、具体的にどのような内容を「指針」で策定していくのか。

「労働政策審議会で審議した上で、ということにはなりますが、政府として今回の附帯決議について十分踏まえた上で、内容を策定していきたいと思っています。

例えば、まずはパワハラとは何かを定義し、どのような場合がパワハラに該当するのか、代表的なものを書き込んでいき、その中にSOGIハラやアウティングについて盛り込んで行くことになると思います。

そして、事業主が何をしなければならないのかを盛り込んでいきます。例えば、パワハラはいけないことだということを明記し、従業員に周知すること。そして被害にあった方の相談体制を整備し、ケアすること。加害者への対処についても盛り込んでいきます。

また、『指針』で書けば終わりということではなく、しっかり事業主に守ってもらうことが大事です。そこは厚労省としても頑張っていきたいと思います」

もし従業員がSOGIハラを受けてしまった場合、どこに相談をすれば良いのか。

岡課長は「パワハラ(SOGIハラやアウティングを含む)に当たるとなると、まず都道府県ごとにある労働局の雇用均等室に相談いただくことになります」と語る。ひどい場合は指導勧告なども行われる可能性がある。

「パワハラに当たらない場合でも個別労働相談が可能です。いずれにしても、まずは労働局にご相談いただければと思います」

「指針」策定について、当事者団体からはどんな内容が盛り込まれることを望むのか。

LGBT法連合会の神谷悠一事務局長は「だんだん”SOGIハラ”という言葉も認識が広がり、SOGIハラによる被害も認知されるようになりました。まず今回の法制化についてお礼を申し上げたいです」と話した。

指針に盛り込まれてほしいポイントとしては「4つ」だと神谷さんは話す。

「まず、SOGIハラやアウティングとは何なのかという定義を指針に入れてほしいと思います。そうしなければ企業としても対応のしようがないので、まずは定義を明確にすることが重要です。

次に、相談時以外でもアウティングしてはいけないと明記すること。国会答弁では、相談された側がアウティングをしてはいけないというのは出てきましたが、相談されていなくても、たまたまセクシュアリティを知ってしまったという場合もあります。そういう時にもアウティングをしてはいけないということを明記し、周知をしてほしいと思います。

3つめは、附帯決議にある「アウティングを念頭においたプライバシー保護」を特出しして記載する。
当事者本人がどこまでカミングアウトしているのかを本人に確認し、同意を得てから第三者話すということを記載してほしいです。

4つめは、性別変更や同性パートナーの関係についての情報管理についても厳格にしてほしいということ。制度を利用することがカミングアウトとトレードオフにならないようにしてほしいと思います。例えば、制度を利用したことで『この人は同性パートナーです』『この人は戸籍上の性別を変えています』という情報が外に漏れてしまうことはアウティングになります。むしろ制度利用が困難になるのは本末転倒なので、アウティングにならない制度づくりが必要です」

本来、LGBTの存在があたりまえなものとして社会に受け入れられ、SOGIハラがない社会であれば、アウティングという概念自体なくなるだろう。しかし「現時点ではまだまだアウティングの防止や対策が必要だと思います」と神谷さんは語る。

「実は、この間の附帯決議の審議で、安倍総理は『社会のいかなる場面においても、性的マイノリティの方々に対する不当な差別や偏見はあってはなりません」と答弁しています。これをスタートラインに、法整備に向けた詰めの議論を進めていただきたいと思います」

企業領域から、メルカリ小泉氏が発言

レインボー国会では、企業の側面からも発言があった。株式会社メルカリ取締役社長兼COOの小泉文明さんが登壇し、経営者の視点としてLGBTやSOGIについて語った。

「メルカリでは、LGBTについて”部活動”の形から考えはじめ、今ではダイバーシティ&インクルージョンのチームができました。社員は世界30ヶ国から来ているので、LGBTだけでなく、宗教や価値観の違いなどを受け入れ、企業として競争力の源泉にしたいと考えています。

特徴的な施策としては、一部の自治体で導入されているパートナーシップ制度を利用していれば、会社の中でも(異性カップル)の婚姻関係と同等の権利を得られるようになっていること。

経営者の視点としては、今までの日本企業は経営者が上で、労働者が下、会社の方針に従いなさいというのがベースでした。しかし、僕らは企業と個人は横の関係であり、パートナーシップに近いと思っています。どうやって優秀なメンバーをエンゲージするか、競争力を高めるかが重要な時代だと思っています」

子どもたちの方が進んでいるかもしれない

まだまだ多くのLGBTの当事者は職場でSOGIハラを経験している。当事者やその周りの人たちはSOGIハラについてどう捉えているのだろうか。

トランスジェンダー男性であることをカミングアウトしている杉山文野さんの母が登壇。「(息子は)学校や職場でいわれのない差別を受け、悩み、我慢をしてきました。今回のような附帯決議が設けられたのは、LGBTの人たちにとっては大きな希望になると思います。前をむいて正々堂々と強く生きていこうという後ろ盾になってくれるはず。本当にありがとうございます」と話した。

自身もゲイであり、公立小学校の非常勤講師をつとめる鈴木茂義さんは「これまで子どもたちから『しげ先生彼女は?』と聞かれ、同僚には『なんで結婚しないの?』『学校の先生は結婚して子どもを持って初めて一人前だよ』と、SOGIハラまみれの職場の中で生き延びてきました。LGBTの子どもたちに関する対応や認識の変化は浸透してきましたが、職場の中ではSOGIハラやアウティングという言葉すら入ってきていません。

ある時、男の子の生徒から『しげ先生パートナーいるの?』と聞かれたんです。びっくりして授業が終わったあと、その子に『なんで彼女じゃなくてパートナーという聞き方に変えたの?』と聞いてみたら、その男の子は『しげ先生の名前をネットで検索して記事を読んで聞き方を変えた』と言ってくれました。

大人たちすらスタート地点に立ちきれていない中で、子どもたちの方が一歩も二歩もSOGIハラについて認識が進んでいるかもしれません」

7月の参院選は「レインボー選挙」へ

長年、LGBTに関する法整備の動きに関わってきた弁護士の中川重徳さんは「かつて毎年こうした院内集会(レインボー国会)開催され、何百人という人たちが参加していることを誰が想像できたでしょうか。政権与党を含め、会派や立場を問わず、LGBTに関する課題をどう解決していけるか、という動きが広がっていることは非常に大きなことだと思います。

LGBTに関する差別を禁止するのか、理解を増進させるのか、相反するもののように捉えるあやまった動きもあります。原点は当事者が直面している困難です。一橋大学アウティング事件のような悲しい事件をなくすために、法律が、社会が、どう変わればいいか。差別を禁止することも、理解を広げることも両方必要です」

最後に「なくそう!『SOGIハラ』実行委員会の松中権委員長が、7月の参院選挙に向けて発言した。

「もともと、このレインボー国会は、一橋大学のアウティング事件がきっかけにはじまりました。

先月、この事件で亡くなってしまった方のご実家に行き、お線香をあげてきました。写真を初めて見たのですが、本当に明るく活発そうな方でした。その方の未来がなくなってしまったのだと悔しくなり、ご両親も1日足りとも忘れることはないと言っていました。周りの方々の悲しみもずっと続いています。そして、他にもまだまだ同じように命を落としてしまった人が存在します。

4回のレインボー国会の開催、そして全国のみなさんの声が届き、今回の附帯決議に繋がりました。一歩だけでなくもう一歩、続けていきたいと思います」

「なくそう!『SOGIハラ』実行委員会」では、SOGIハラに関する書籍を刊行した。具体的なSOGIハラの事例や対応について詳しく書かれているという。

「レインボー国会の次は『レインボー選挙』です。7月の参院選、みなさんの声をもとに、法律を実現してくれる人たちを、みなさんの手で選んで行きましょう。

LGBT法連合会が全候補者にLGBTに関する政策についてのアンケートを取る予定です。それを投票の前にぜひチェックして、政党や会派は関係なく『この人だったら現状を変えてくれるのでは…!』と思う人を、みなさんの手で選んでいただければと思っています」




プロフィール
1994年愛知県名古屋市生まれ。明治大学政治経済学部卒。一般社団法人fair代表理事。オープンリーゲイ。政策や法整備を中心としたLGBTに関する情報発信やキャンペーンを行っている。LGBTを理解・支援したいと思う「ALLY(アライ)」を増やす日本初のキャンペーン「MEIJI ALLY WEEK」発起人。

Twitter @ssimtok
Facebook soshi.matsuoka

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松岡宗嗣

一般社団法人fair代表理事

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