2021-03-12

同性婚訴訟、17日に札幌地裁で日本初の判決。予想される判決のポイントは

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松岡宗嗣

法律上同性のカップルに婚姻を認めていない民法は「憲法違反」かーー。3月17日に、日本で初めて札幌地裁で司法判断がくだされる。

「たとえ判決が『原告の請求を棄却する』であっても必ずしも負けではなく、『実質的な勝訴』となる可能性があります」と弁護士の須田布美子さんは語る。

「実質的な勝訴」とは何か。判決を前に、改めて今回の訴訟の争点と、予想される判決のポイントについてお話を伺った。

「結婚の自由をすべての人に」訴訟・北海道弁護団の須田布美子弁護士(本人提供)
「結婚の自由をすべての人に」訴訟・北海道弁護団の須田布美子弁護士(本人提供)

争点は大きく二つの段階

2019年2月14日以降、全国各地で一斉提訴した「結婚の自由をすべての人に」訴訟。

昨年は新型コロナウイルスの影響で訴訟期日が延期になる地裁も多かった中、札幌地裁は裁判長の訴訟指揮が積極的だったこともあり、訴訟はスムーズに進んだ。

今回の訴訟において、原告の主張であり争点は、大きく二つの段階に分かれている。

一つ目は「同性婚が認められていない現行の民法や戸籍法等の法律(以下、まとめて『現行法』)は『憲法違反』ではないか」ということ。その上で、二つ目として「同性婚を法制化していない国の職務を怠っている状態(=立法不作為)は違法であり、原告の同性カップルは精神的な損害を受けているため、国は慰謝料を支払え(=国家賠償請求)」というものだ。

日本の裁判では、憲法違反を直接的に問うことができない。言わずもがなだが「原告が真に求めるものはお金ではなく、『同性間の婚姻を認めない法律は違憲』という司法判断です」と須田さんは話す。

①憲法違反かどうか – 憲法24条「婚姻の自由」

最も大きな争点は、一つ目の「同性婚を認めていないのは憲法違反かどうか」という点だ。

原告側は憲法24条1項が定める「婚姻の自由」は「婚姻するかどうか、いつ誰と婚姻するかという意味での”自由”を権利として保障している」ため、法律上同性のカップルにも保障されるべきだと主張している。

「両性の合意」が同性婚を禁止していると誤解している人も多いが、須田さんは「憲法制定当時まで、『家制度』により婚姻は両家の『戸主』の同意が必要とされていました。しかし憲法24条1項で『両性の合意』が明記されたのは、その『家制度』からの解放という趣旨であり、あくまでも二人の合意のみによって婚姻ができるということを示しています。

また、憲法制定当時、海外でも同性婚を法制化している国はありませんでした。憲法24条1項は同性婚を禁止しておらず、むしろ婚姻の自由を同性カップルにも保障しています」と話す。

これに対し国側は、「憲法24条1項は同性間の婚姻を想定していない」とし、「同性婚を禁止している」とは主張していない。しかし「同性間の婚姻を、異性間の婚姻と同様に保障しなければならないことを命じるものでもない」と述べているという。

①憲法違反かどうか – 憲法14条「平等原則」

憲法14条は「法の下の平等(平等原則)」を定めており、原告側は「異性間は結婚できるのに同性間は結婚できないというのは、婚姻の自由を侵害し、性的指向に基づく不当な差別だ」と主張。

また、「婚姻の意義や目的は、パートナーとの人格的な結びつきの安定化であって、それは異性カップルでも同性カップルでも重要性に変わりはありません。差別する合理的な理由はない」と須田さんは語る。

一方で、この点についても国側は「そもそも憲法24条1項は同性婚を想定していないのだから、異性間と同性間で”差異”が生じることを憲法は容認しており、憲法14条の平等原則には違反していない」としている。

婚姻の意義や目的についても、「あくまでも子を産み育てるための共同生活を送る関係に法的保護を与えるもので、異性間と同性間を区別しても不合理ではない」と述べているという。

さらに、須田さんによると、国側は「異性愛者も同性愛者も、法律上は異性と結婚ができ、同性と結婚できないのは”同じ”だから、これは性的指向に基づく差別ではない」などという論文を引用しているという。

これはまさに詭弁であり「こんな主張が成立するなら、他のさまざまな差別だって差別ではなくなってしまいます」と須田さんは話す。

②立法不作為が違法かどうか

訴訟では、一つ目の「憲法違反かどうか」という争点に加えて、前述したように二つ目として「国が同性婚を法制化していないこと(=立法不作為)は職務怠慢であり違法と評価できるか」という点についても争われている。

原告側は、国が同性婚を法制化していないことは(法律上同性のカップルの)憲法上の権利を侵害していることが明らかであり、国会は正当な理由もなく、ずっと立法をせず職務を怠っている状態だ。これは立法不作為が違法と評価される状態であり、国家賠償法上の違法性が認められると主張している。

これまで「府中青年の家事件裁判」の判決や、自治体でパートナーシップ制度の導入が広がっていること、さらに海外でも多くの国で同性婚の法制化が進んでいることなど「相当前から同性婚を法制化しないことで、同性カップルの権利侵害が続いている状態であることは明らかです」と須田さんは語る。

しかし、この点についても国側は「現行の民法や戸籍法の規定が、憲法24条1項や14条1項に違反するものではない(と主張している)以上、立法不作為が国家賠償法上違法となる余地はない」と真っ向から否定している。

札幌地裁に入廷する原告ら(筆者撮影)
札幌地裁に入廷する原告ら(筆者撮影)

「実質的な勝訴」とは

ここまで訴訟の争点となる大きな2つの段階について整理した。では、3月17日にはどのような判決がくだされる可能性があるのだろうか。

須田さんは「もし、裁判長が『主文、被告は原告らに対し、各〇〇円を支払え』と述べたら、金額にかかわらず原告の完全勝利です。同性婚を認めていない現行法は違憲であり、国の立法不作為が違法であるということが認められたことになります」と話す。

一方、もし主文で「原告の請求を棄却する」と述べられたとしても、これは必ずしも敗訴ではない可能性があるという。

つまり、二つ目の争点である「立法不作為による国家賠償請求」が認められなかったとしても、判決の中で一つ目の争点である「同性婚を認めていない現行法は違憲」だという判断が示されたら、原告側にとっては「実質的な勝訴」になるのだ。

さらに「(判決が)明らかに違憲という判断ではなかったとしても、例えば裁判所が国に対し早急に同性婚の法制化を求めるといった言葉が触れられていたら、これは『勝訴』ではありませんが、国会にバトンが渡されたことになります」と須田さんは話す。

もし判決の中で同性婚を認めていない現行法は「憲法違反ではない」とされ、国の立法不作為も違法ではなく、国家賠償請求も認められないというものであれば、これは原告側の「敗訴」となる。

日本で初めての司法判断

実際にどのような判決になるかは当日までわからない。

須田さんは「裁判長は国側に対しても積極的に説明を求めたり、本人尋問の際にも補充尋問を行うなど、訴訟指揮が積極的でした。きっと前向きな判断をしてくれると期待したいです」と話す。

全国の「結婚の自由をすべての人に」訴訟のスケジュールは各地裁によって異なるが、札幌地裁の判決後も、東京、名古屋、大阪、福岡の各地裁で判決がくだされていくだろう。札幌地裁の判決が影響する可能性もある。

一方で、あくまでも今回は地裁での判決になるため、結果にかかわらず負けた方は必ず控訴し、高裁、最高裁へと訴訟は続いていくだろう。

須田さんは「たとえ札幌地裁で勝訴しても、明日から同性カップルが結婚できるようになるわけではありません。あくまでも国会で法律がつくられることが必要です。早急に法制化してもらうためにも、地裁で勝ったあと、高裁・最高裁でも勝つことが重要です」

判決は来週3月17日(水)の午前11時頃に伝えられる。当日は、裁判所の前で弁護士や原告らが訴訟の結果を掲げるいわゆる「旗出し」が行われるだろう。

国が同性婚の法制化を進めないなか、「人権を守る最後の砦」と言われる日本の司法が、法律上同性のカップルの結婚が認められていない現行法を「憲法違反である」と示すかどうか。

果たして札幌地裁の前でレインボーフラッグははためくのか。「結婚の平等」をめぐる最初の司法判断が下される。

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松岡宗嗣

一般社団法人fair代表理事

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