2018-08-24

アジア系LGBTがアメリカ社会で直面すること:キーワードは「インターセクショナリティ」

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松岡宗嗣

7月末、私はアメリカ・サンフランシスコにいた。チャイナタウンのほど近くで開催された、アジア系LGBTに関するカンファレンス「NQAPIA National Conference 2018」に参加するためだ。

主催したのは、NQAPIA(National Queer Asian Pacific Islander Alliance)というアメリカにおけるアジア太平洋諸島地域にルーツや縁のあるLGBTのための全国組織。

3年に1度開催されるこのナショナルカンファレンスでは、LGBTに関する法制度、貧困、若者、移民、就労、教育、家族、メディア、宗教、NGOの運営、ファンドレイジングなどなど、100を超えるテーマのセッションが4日間に渡り行われた。


カンファレンスには約700人が参加した。

カンファレンス全体を通して「Intersectionality(インターセクショナリティ)」という言葉を耳にすることが多かった。

インターセクショナリティとは、差別について考える時「人種や宗教、国籍、性的指向、性自認、階級、障害など、ひとりひとりの持つ属性や、それによる差別の構造は多層的で”交差”している」という考え方だ。

あまり馴染みのないこの言葉だが、アメリカ社会において、アジア系であり、そしてLGBTであることによって直面する困りごとについて話を聞くうちに、そのキーワードの重要性と、あらゆる場所で必要な視点であることが伝わってきた。 

100を超えるセッションのうち、参加できたものはごくわずかだが、その中でも印象的だった「若者へのサポート」と「職場における平等とALLY」に関するセッションの内容を紹介したい。


Human Rights Campaignの公教育・リサーチ担当のMarkさん。

「自分らしさ」を表現できている人はたった3割

「アジア系LGBTの若者へのサポート」がテーマのセッションでは、まずはじめに全米最大のLGBT関連団体「Human Rights Campagin (以下HRC)」が、コネチカット大学と行ったLGBTQの若者に関する調査を紹介した。

HRCのMarkさんによると、回答があったアジア系LGBTの若者1243人の多くはカリフォルニア州をはじめ、大都市近辺に住んでいるという。

「アジア系LGBTの若者にとって、家族からの受容はとても重要です。

しかし、調査ではアジア系LGBTの若者のうち30%が、家族のLGBTに対するネガティブな発言を聞いていると回答しており、4分の3がカミングアウトにストレスを感じています」。

家族からのサポートは他のマイノリティより低く、そもそも家族の会話の中でLGBTQに関するトピックについてあまり取り上げていない傾向があったという。

「『自分らしさ』を表現できていると回答したアジア系LGBTの若者はたった3割でした」

その背景には、61%のアジア系LGBTの若者が性的な揶揄を受けたことがある、33%しか学校を安全だと感じられていない。さらに、ジェンダーやセクシュアリティだけでなく85%が人種差別を受けているという経験も重なっている。


後半のトークセッション。左からカウンセラーのShiliniさん、HRCユースアンバサダーのSameerさん、大学生のKiyoonさん、トランスジェンダーの子を持つSungさん、そしてHRCのMarkさん。

なにより大事なことは「子どもの身の安全」

後半のトークセッションでは、家族をテーマに、アジア系LGBTの当事者やその親などが登壇し、経験を語った。

登壇者のひとりで、韓国系アメリカ人2世の大学生、Kiyoonさんは、親へカミングアウトしづらい理由として「移民として成功することの難しさ」もひとつの要因ではないかと指摘する。

「私の親からいつも聞かされたいたのは、『白人の男性と比べて、アジア系は2倍働いてやっと半分くらいの評価しか得られない』ということでした。

なので、子どもの成功を願うからこそ、LGBTであることをカミングアウトして欲しくないのかなと思います。実際私も親から医者になることを望まれていました」。

インド系アメリカ人でカウンセラーのShliniさんは「子どもがLGBTだった場合、私の育て方が悪かったのではないかと思う人も多いです。その場合はとにかく他の当事者の親と会ってみてくださいということを伝えています」。

韓国系アメリカ人で、19歳のトランスジェンダーの子どもを持つ親のSungさんは「なによりも大事なことは子どもの身の安全です」と指摘する。

「いつも子どもがLGBTであることで悩む親に対して言いたいのは『明日あなたの子どもが存在しないかもしれないんですよ』ということ。新聞で自殺した子どもに関する記事を見て、それが明日の自分の子どもかもしれないのです」。

Shaliniさん「愛情は子どものアイデンティティとは切り離したものとして考えないいけません」。

同じくKiyoonさんは「子どもは親のおもちゃではなくひとりの人間です。それはつまり、子どもがすることによって親のイメージが決められてしまうというのもおかしいことなのです」。


NQAPIAのカンファレンスにはLGBTの子を持つ親も多数参加した。

職場における平等とALLY

職場における平等とALLYについてのセッションでは、企業のダイバーシティ&インクルージョン担当、LGBTと就労に関するNGO職員らが登壇した。

1人目は、世界的な会計・税務ソフトウェア・クラウドサービスの大手企業「Intuit」で、社内LGBTグループのリーダーをつとめるAbigailさん。そして、企業におけるLGBTに関する問題に取り組むNGO「OUT&EQUAL」のディレクター、Isabelさん。さらに、アメリカ最大手の電話会社「AT&T」でダイバーシティ&インクルージョンを担当しているRickさんの3名が登壇した。


左から司会のMikiさん、IntuitのAbigailさん、OUT&EQUALのIsabelさん、AT&TのRickさん

どうインクルーシブな組織をつくるか

OUT&EQUALのIsabelさんは「2018年はインターセクショナリティがキーワード」だという。

社員数約5万人のうち、6%がアジア系、LGBTのグループには約1500人の社員が参加しているというAT&TのRickさんは「女性で障害を持っている人、LGBTQで有色人種といったインターセクショナリティをどのように包摂するかを考えなければいけません」

Intuitでは、LGBTの社員グループがラテン系のグループとともにPRIDEパレードを歩いたり、お互いの経験を語りあうプログラムを行ったりと、グループ相互に関係を持ち、さまざまな属性の重なりを考える機会を増やしているという。

特に異なるアイデンティティを持つ人が多く集まる企業では、どうインクルーシブな組織を作っていくかという点において、インターセクショナリティの考え方は非常に重要になってくるようだ。


カンファレンスで使用したネームタグ。右上の「HE」を書かれたバッジは、自分の「Pronoun(代名詞):He/She/Theyなど」が何なのかというのを伝えるためのもの。相手の性自認について必要最低限の情報がわかる画期的なアイテムだ。

関心を集めるための「ALLYプログラム」

社内のLGBTに関するネットワークに参加してもらうための施策として、IntuitのAbigailさんは「ALLYプログラム」が効果的だと話す。

プログラムでは、LGBTに関する知識を提供することで、グループへの参加を促し、LGBTを取り巻く課題の解決についてコミットしてもらうということを目的としている。

「まずLGBTについて話すことができる場を作ることが重要です。そのために教育は非常に大切になってきます」と話すOUT&EQUALのIsabelさん。LGBTに対する関心を高め、グループへの参加を促進するために、ALLYプログラムが成功しているという。

しかし、すべての地域でうまくいっているというわけではない。

IntuitのAbrigailさんは「(アメリカでも)テキサスではカミングアウトしている社員はほとんどおらず、サンフランシスコとは別世界のようです」と話す。

「例えばインド支社では、当事者の社内グループをつくることは難しいかもしれません。しかし、ALLYプログラムはできる可能性があります。

当事者もALLYと名乗ることでグループに参加してくれることもあります。まだまだセクシュアリティをオープンにすることが難しい場合、ALLYプログラムからはじめてみても良いかもしれません」。

会場の中には、サンフランシスコで働いているというアジア系LGBTの当事者も参加していた。

「以前私が働いていた会社で、LGBTのグループとアジア系のグループと両方に参加していましたが、LGBTのグループはほとんど白人で、私はアジア系のグループの方が歓迎されている気がしました」。こうした状況をはじめ、会社はインターセクショナリティの視点から問題があるように感じていたという。

こうしたインターセクショナリティの考え方は「ALLYプログラムにも取り入れる必要がある」とIntuitのAbigailさんは話す。

「ALLYSHIP(アライでありたいと思う姿勢や精神)ということを考える時、それはLGBTの問題以外にも目を向けるべきだと思います。
例えばLGBTのグループだけでなく、アジア系グループや、その他のグループにもメンバーが参加し、相互に交流することによってALLYSHIPそのものの形を広げていくことができるかもしれない。ともに話せる場をつくることが、まず第一歩として必要ではないかと思います」。



プロフィール
1994年愛知県名古屋市生まれ。明治大学政治経済学部卒。一般社団法人fair代表理事。オープンリーゲイ。LGBTを理解・支援したいと思う「ALLY(アライ)」を増やす日本初のキャンペーンMEIJI ALLY WEEKを主催。

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松岡宗嗣

一般社団法人fair代表理事

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