「アメリカが必ずしも良い環境ではない」サンフランシスコで活動する5つのLGBT団体を紹介

7月末、アメリカ・サンフランシスコで行われた「NQAPIA National Conference」に参加した。(NQAPIAはアメリカに住むアジア太平洋諸島地域にルーツや縁のあるLGBTの全国組織)
カンファレンスについてはこちら:
アジア系LGBTがアメリカ社会で直面すること:キーワードは「インターセクショナリティ」

サンフランシスコはLGBT関連の非営利団体が多く集まっている地域でもある。そのうち5つの団体「our family coaliton」「APIENC」「NCLR」「Transgender Law Center」「San Francisco Community Health Center」「SF LGBT Center」を視察することができた。

視察した団体は、どこも事業内容やファンドレイズ(資金集め)など、戦略的に組織されている団体ばかりだった。それと同時に、特に現政権下で、こうした非営利団体の活動がまだまだ必要とされている現状について触れることができ、刺激となった。断片的にだが、各団体について紹介したい。

our family coalition

「our family coalition」は子育てをするLGBTQの家族の支援団体。2002年に「Our family」と「All Our Families Coalition」というもともと別々だった2つの団体が統合し、「our family coaliton」となった。

our family coalitionによると、アメリカの18歳以上の3〜4%がLGBTQだと自認しているという。そのうち3分の1以上が親であり、約600万人もの人がLGBTQの親に育てられている可能性がある。

our family coalitionのデータベースには約7000のLGBTの家族が登録されており、0~18歳くらいまでの子を持つ親を中心としたサポートや教育、政策提言などの活動を行っている

「団体として、より安全なコミュニティづくりを目指している」と話すのはFamily Programs DirectorのYusniさん。

「2012年にカリフォルニア州の公立の学校では歴史の授業でLGBTQについて扱われることが義務化しました。子どもを育てることはカリフォルニア州では安全ですが、他の地域ではまだまだそうではない所もあります」。


APIENCのオフィス

APIENC

APIENCは「Asian Pacific Islander Equality Northern California(北部カリフォルニアにおけるアジア太平洋諸島の人々の平等)」の略称だ。2004年、当時LGBTに関して差別的な態度をとっていた中国系コミュニティのリーダーに対抗するためというのが設立のきっかけだったという。

APIENCが行っているプログラムは以下の3つ。

1つは「Trans Justice Initiative」。アメリカではトランスジェンダーの人たちがLGBTQの中でも特に暴力を受けやすい。さらにその中でもアジア系のトランスジェンダーは抱える課題にスポットが当たりづらく、データやリソースも少ない。そのため、アジア系のトランスジェンダーの居場所を作り、現状をまとめ政治家やメディアに伝えることなどを行っているという。

2つめは「Dragon Fruit Project」。アメリカにおけるLGBTQの運動の歴史の中で、資料に残りづらいアジア系の歴史を保存するためのプロジェクト。運動に携わった年配のアジア系のLGBTQの人にインタビューを行い、動画や文字で記録している。

3つめが「Leadership Development」主に学生や20代前半の人を対象とした定期的な研修やLGBTQ以外のテーマで活動をしている団体との交流なども行いリーダーシップを育むプログラムだ。


左からAPIENCのSammieさん、M Linさん

APIENCはSammieさんとM Linさんの2名の有給スタッフとその他のボランティアによって運営されている。

M LinさんはAPIENCの活動の上で大事なことは「Transformation(変容)」だという。

「自分自身の”変革”、そして人と人との間での”変革”、さらに社会の”変革”です」「人はさまざまなアイデンティティが混ざり合っています。いずれはLGBTQだけでなく、どんなアイデンティティでも、社会の一員としてお互いに認め合い、自由に生きられる。そんな
世の中を目指しています」


NCLRの会議室

NCLR

NCLR:National Center for Lesbian Rights(レズビアンの権利のためのナショナルセンター)は1977年に設立された公益的な裁判を扱う法律事務所だ。

設立当時は、LGBTQの運動の中でも男女でギャップがあり、特にレズビアンが男性と結婚し子どもを出産するも、その後子どもの養育権を失ってしまうというケースが多く、創立者のDonna Hitchensがレズビアンの権利のために立ち上がったことがきっかけだという。

その後もレズビアンに限らず、LGBTQのユース、移民、シニア、養子、スポーツなど、さまざまな領域の訴訟に携わってきた。


NCLRのオフィス

NCLRのスタッフであり、弁護士のJulieさんがちょうど関わっている最中だという裁判は「高齢者施設に入ろうとしたレズビアンの当事者が、性的指向を理由に入会を断られた」というもの。

「アメリカ国内で全国的に活動していて、スタッフも限られているので、どのケースが全国的にインパクトがあるかを考え絞ることが重要です。直接対応できないものに関しては、できるだけ情報提供を行っています。また、現地の弁護団とつなげたり一緒に弁護活動をすることもあります」。

主にトランスジェンダー関連の訴訟を担当しているAlexanderさんによると、トランスジェンダーのホームレスはLGBに比べて2倍多く、トランスジェンダーの47%は就職に関して困難を抱えているという。さらに、小学校では78%のトランスジェンダーが虐待や暴力を受けている。

「我々としては、LGBT当事者はただのひとりひとりの人間であり、人間は同じ権利を持つべきだという運動と教育を行っています」。


Transgender Law CenterのRaquelさん

Transgender Law Center

Transgender Law Center(トランスジェンダー法センター)は、2002年に設立されたトランスジェンダーの法律に関するアドボカシーや訴訟支援、キャンペーン等を行っている団体。

「現在のアメリカは危うい状況で、トランプ大統領が当選してから私たちの活動範囲は広がりました」と話すのは、National OrganizerのRaquelさん。TLCで働きながら、ライターやスピーカーとしても活躍するトランスジェンダー活動家だ。

Raquelさんは主にBlack Trans Circleというプロジェクトに関わり、全国の黒人のトランスジェンダー女性のアクティビストたちをトレーニング。トランスジェンダーの権利のために戦っている。


TLCのオフィス

近年、トランプ政権の影響もあり、Transgender Law Centerでは特にトランスジェンダーの移民、HIV問題に対して力を入れているという。

「自国で暴力を受けてアメリカに来たトランスジェンダーの移民の方たちが弁護を受けられない際に、私たちがリーガルサービスを提供しています」と話すのは、訴訟担当部門ディレクターのLynlyさん。弁護士が直接サポートに行けるよう資金支援も行っているという。

Lynlyさんによると、収容施設でトランスジェンダー女性が男性部屋に入れられ、性的暴行を受けるケースが多いという。医療アクセスが受けられず、薬を必要としても弁護士を通じて申請しなければ薬が得られないこともある。

「もともと移民のために働いている弁護士やセンターは少ないですが、特に人種マイノリティのトランスジェンダーの人たちのために働いている人はもっと少ない。そのため私たちの仕事は特に重要だと認識しています」。


San Francisco Community Health Center事務局長のLanceさん

San Francisco Community Health Center

San Francisco Community Health Centerは、もともと1987年に「API Wellness(アジア太平洋諸島出身の人の健康)」という名前で、アジア系のHIV/AIDS陽性者のためのコミュニティとして設立された。きっかけは1980年代初頭にサンフランシスコでアメリカ初のAIDS発症例が確認されたことだったという。

「現在はサンフランシスコの人口の3分の1がアジア系なのです」と話すのは、事務局長のLanceさん。

「アジア系のコミュニティはHIVに関するスティグマが特に強かったので、LGBTであり、かつHIVを抱えていることで家族やコミュニティから拒絶されることもよくありました」。

設立から約30年。今ではアジア系だけでなく、他のコミュニティやトランスジェンダーのコミュニティに対しても提供範囲が広がってきた。8年前から無料のクリニックもスタートし、医師や看護師がボランティアで働いているという。

そして、今年センターの名前を「API Wellness Center」から「San Francisco Community Health Center」に変えた。

San Francisco Health Centerは「テンダーロイン」というエリアにセンターを構えている。

「ここは、ホームレスや精神疾患を抱えている人も多く、サンフランシスコで一番貧しい人たちのコミュニティがあります」。そのエリアにあるからこそ、現在はアジア系だけに限らず「すべての人たちを対象とできていることが誇らしいと思っています」。

医療サービスだけでなく、当事者の自助コミュニティとして、当事者が集まって話ができるスペースや、HIV/AIDS検査、相談事業、医療教育なども行っている。


SF LGBT Centerの外観

SF LGBT Center

SF LGBT CENTER (San Francisco LGBT Community Center)は2002年に設立されたLGBTのためのコミュニティスペース。キャリアカウンセリングや就職フェア、ホームレスLGBTユースに対する食事の提供、LGBTの若者が安全に過ごせるスペースなど、毎月200を超えるさまざまな領域のプログラムが行われている。

SF LGBT Centerの理事であるSparksさんは「ローカルなコミュニティであること」が重要なポイントだと話す。

「LGBTセンターが設立された時、コミュニティからは反対の声もありました。その中には、センターが既存の活動団体が行っているプログラムと同様のものを実施することで、既存団体が資金を集められなくなるのではないかという懸念がありました」

実際に他の地域のLGBTセンターでは、地元の団体がセンターに回収され、それまでさまざまな人種によって運営されていたプログラムが資金が潤沢な白人のLGBTコミュニティによって運営されるようになるというケースも少なくなかったという。

「SF LGBT Centerは他の団体のプログラムと同じものをやらないようにしたり、他の団体のお金を使わないというルールを定め、とてもローカルなコミュニティセンターとなりました」。

ファンドレイズ(資金集め)をメインの業務とするSparksさんは「資金がどのように使われるか」「置いてけぼりにされている人がいないか」も重要だと話す。

大きなLGBT関連の団体は著名人や政治家もサポートしてくれるが、やはりその団体の幹部は白人でシスジェンダーの男性が多い。

「特に有色人種のトランスジェンダー女性と白人のゲイの男性との貧富の差は大きいです。同性婚ができるようになってもLGBTコミュニティが統一できているわけではなく、例えばトランスジェンダー女性の生活は何も変わっていない部分も依然あります。 

日本がどのような状況かわかりませんが、(LGBTを取り巻く環境が)アメリカが必ずしも良いというわけではありません」。

コミュニティを作る上で大切なのは、「この部屋には誰がいないか?」を考えること、そして「集めた資金を誰のために使うか」だという。

特に大きな団体は「全国から集めたお金を自分たちのためだけでなく、ローカルのコミュニティのために使うことも重要です」。



プロフィール
1994年愛知県名古屋市生まれ。明治大学政治経済学部卒。一般社団法人fair代表理事。オープンリーゲイ。LGBTを理解・支援したいと思う「ALLY(アライ)」を増やす日本初のキャンペーンMEIJI ALLY WEEKを主催。

Twitter @ssimtok
Facebook soshi.matsuoka

SoshiMatsuoka • 2018-08-25


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