2018-12-13

「LGBTは政治的な対立の問題ではない」第3回レインボー国会が開催、一日も早い法整備求める

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松岡宗嗣

今回で3回目となるLGBTやSOGIに関する公正と平等を求める「レインボー国会」が13日、衆議院議員会館で開催。約200名が集まった。

国会議員からは党派を超えた15名が参加。今月5日には、野党6党派がLGBT差別解消法案を共同提出しているが、LGBTやSOGIに関する問題は「与党か野党かという政治的な対立の問題ではない」とし、一日でも早い法整備の実現に向けた議論がなされた。

LGBTの人々への偏見や差別をなくし、SOGIに関わらず安心安全に暮らせる社会を

基調講演では、金沢大学国際基幹教育院准教授の谷口洋幸氏から、LGBTやSOGIをめぐる法政策の国際的な動向について話があった。

現状の法制度は、LGBTではない人々のみが前提とされている。そのため「性的指向や性自認という誰もが持つ属性であるSOGIによって、人々が分断されている」と谷口氏は話す。

「『LGBTの人々への偏見や差別をなくし、すべての人が性的指向や性自認(SOGI)にかかわらず安心安全に暮らせる社会の実現』というのが各国の目指す法政策のあり方です」。こうした目的を実現するために、同性愛や異性装の処罰の撤廃、同性カップルの法的な保障、SOGIを理由とする差別禁止などの動きがある。

より具体的な目標として「尊重(Respect)、保護(Protect)、充足(fulfill)・実現(Realization)の3つのステップがあるという。

「一つめの『尊重』は、例えばカミングアウトをすることを制限したり、パレードを規制することがないよう、個人の尊厳としてSOGIを認めていくという法政策です。

二つ目の『保護』は、LGBTに対する差別や偏見を防止することや、受けてしまった際に救済されるための法政策です。具体的には相談窓口などがあります。

最後の『充足・実現』は、例えば、教育の中でLGBTやSOGIを伝えること、社会保障の中でSOGIだけを理由に排除しないようにするなど、LGBTやSOGIを理由とした不利益をうけない社会です。」

こうした国際社会のLGBTやSOGIをめぐる法政策が進む中、「国内においても15年以上にわたり、SOGIに関する具体的な取り組みが行われていることを確認しておきたい」と谷口氏は話す。

「例えば、法務省が性的指向の問題を取り上げたり、教育分野でもLGBTに関する指針を出したり、厚労省や内閣府の自殺対策ではハイリスク集団として明記されているなど、15年以上にわたり、さまざまな具体的な取り組みが行われています。

しかし、それでもなお、さまざまな問題を抱えている人がいつ現状をどう認識し、次にどのような政策が必要かを改めて考える必要があると思います」。

「差別の禁止規定」と「苦情処理や行政指導」

労働政策研究・研修機構副主任研究員の内藤忍氏は、自治体のLGBTやSOGIに関する施策を紹介した。

内藤氏によると、自治体のLGBTやSOGIに関する差別をなくすための基本的事項は2つだという。ひとつは「『差別をしてはならない』と差別の禁止規定を明記すること」。そしてもう一つは「苦情処理制度」や「行政による指導」を明記することだ。

例えば東京都世田谷区の「多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例」では、第7条で「何人も、性別等の違い又は国籍、民族等の異なる人々の文化的違いによる不当な差別的取扱いをすることにより、他人の権利利益を侵害してはならない」としている。

ここで言う「性別」に性的指向と性自認が含まれると定義されているため、SOGIに関する差別の禁止が明記されている。

もう1つは「実際に差別的取り扱いを受けた人が救済されたり、是正してもらうための制度として『苦情処理制度』や『行政による指導』を明記すること」だ。

「差別をしてはならない」と規定されていても、差別的取り扱いは起きてしまうことがある。

「その場合、裁判所にいけるケースはなかなか少ないと思います。だからこそ、自治体に申し出ることで、行政から救済や是正ができることが望ましいです」。

与野党を超えた法整備を

参加した国会議員の方々からは、「(LGBTは)生産性がない」などの差別的な文章を寄稿した杉田水脈議員を発端とする騒動についてや、与野党を超えた差別をなくすための法案の早期成立についての発言が目立った。

超党派LGBT議連の会長である馳浩衆議院議員は「与党案/野党案という言い方はしない方が良いと思っています。これは政治的な対立の問題ではありません、法律はつくるだけでなく運用でも意味があるので、その方向性で努力したいと思っています」と語った。

5日に野党6党派共同でLGBT差別解消法案を提出した立憲民主党の福山哲郎参議院議員は、提出について「一定の引っ張る力」と「(党派を超えて)調整する力」の両方が必要とした上で「法律ですから、色々なものを削ぎ落として何を言っているか意味がないという法律ではいけません」と語った。


第3回レインボー国会に参加した議員は以下(発言順)。
公明党・谷合正明参議院議員
細野豪志衆議院議員
国民民主党・泉健太衆議院議員
立憲民主党・尾辻かな子衆議院議員
共産党・宮本岳志衆議院議員
共産党・畑野君枝衆議院議員
立憲民主党・山花郁夫衆議院議員
共産党・山添拓参議院議員
自民党・馳浩衆議院議員
自民党・牧島かれん衆議院議員
自民党・朝日健太郎参議院議員
国民民主党・小宮山泰子衆議院議員
立憲民主党・初鹿明博衆議院議員
立憲民主党・福山哲郎参議院議員
社民党・福島瑞穂参議院議員

差別はまだまだある

レインボー国会では、JR東日本などの企業や当事者らのトークもあった。

アクセンチュア株式会社の東由紀氏は第1回目のレインボー国会から参加している。

「やっとここ数年で国や自治体が少しずつ動きはじめたなと実感しています」。

職場の中での差別はまだまだ散見されるという。

「人事なので、立場上報告されてくる事例は決して楽しい事例ばかりではありません。就労する上で困難を抱えている人も多く、私は今年、知り合いをそういった差別で亡くしています。(LGBTやSOGIに関する差別は)人の命につながる問題だと思います」。

前職からALLYを増やす活動を継続してきたという東氏は、コンサルティングファーム数社と連携して、企業が抱えるLGBTやSOGIに関する課題を調査し提言していく予定だという。

社会や制度に自分があてはまらない

トランスジェンダーの当事者で、Rainbow Tokyo 北区代表の時枝穂​氏は、これまでさまざまな差別やハラスメントを経験してきたという。

「例えば、病院の受付で本当に本人なのか確認されるのは毎回精神的な苦痛で、私にとって(病院は)安心できる場ではありませんでした。

トイレも困りました。男女どちらに入れば良いかわからず我慢したり、水分を控えることもありました。健康診断もここしばらく受けていません。

履歴書の性別欄に男女どちらにも丸をつけられず提出したこともありました。いざ働きはじめても、戸籍の性で働くことを強要させられ、仕事を辞めることが続いたこともあります。

社会や制度に自分があてはまらないことで心身に支障をきたし、自分は生きていても仕方ないという気持ちになって親を恨んだり、うつになった頃もありました」

それでもこうして前に立ち自身の経験を話す理由は「これから社会を担う若い世代が、同じように生きづらさを感じないようにするのが大人の役目だと思うから」だという。

「今、当事者ひとりひとりが声をあげて法制度をなんとか変えようと立ち上げっています。差別禁止の法制度を含め、良い社会を作っていきたいと思います」。

40件も病院に断られた

HIV陽性者のネットワークJaNP+の長谷川博史氏は、HIVを理由とした差別を今でも経験している。

「私は1992年、39歳の時にHIV陽性であることがわりました」以降、20年程HIVに関する活動を続けてきたという。

「ここ5〜6年で経験したこととしては、郊外に引っ越そうと思い住宅を見つけて、沿線の透析クリニックを探したましたが、HIV陽性であることを伝えると40件の透析クリニックから断られてしまいました。

中には『うちでエイズやってないから』と突然電話を切られたり、半分以上の病院から『なんで(わざわざ)うちなんだよ!?』といった反応をされました。HIV陽性者に対する医療サービスの差別をなくして欲しいと思います」。

一日でも早い法整備を

自民党のLGBT特命委員会は13日、党本部で会合を開き、LGBT理解増進法の概要を示したという。性的指向や性自認に関する差別をなくすための法律は、今後どのように与野党で調整され、成立されるのだろうか。

LGBT法連合会共同代表の藤井ひろみ氏は「2019年に期待を込めて、来年こそは、よろしくお願いします」。同じく事務局長の神谷悠一氏は「与党も野党も関係なくというご発言もありました。議員立法は全会派が一致しなければ成立しないと聞いています。一日でも早い法整備を期待します」と語った。

第3回レインボー国会の動画はこちら



プロフィール
1994年愛知県名古屋市生まれ。明治大学政治経済学部卒。一般社団法人fair代表理事。オープンリーゲイ。LGBTを理解・支援したいと思う「ALLY(アライ)」を増やす日本初のキャンペーンMEIJI ALLY WEEKを主催。

Twitter @ssimtok
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松岡宗嗣

一般社団法人fair代表理事

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